― 流した汗は、いつか心を支える ―
空手の稽古に通い始めた頃、
指導してくださっていた先生(弐段)に、
久しぶりにお会いしました。
先生は私より16歳も年下でしたが、
礼儀正しく、立ち姿も美しく、
どこか品のある方でした。
その姿に私は惹かれ、
気づけば“目標”のような存在になっていました。
先生はすでに道場を退会されていたそうで、
再会はおよそ2年半ぶり。
「どうして道場をやめたんですか?」と尋ねられ、
私は素直に理由をお話ししました。
すると先生は穏やかに微笑みながら、こう言いました。
「弐段になるには、10年はかかるかもしれませんね。」
その一言に、不思議と心が静まりました。
私は週に5〜7回も稽古に励み、
汗を流し続けていました。
それでも越えられない“壁”があることを、
痛いほど感じていたのです。
館長先生はいつもこうおっしゃっていました。
「稽古で流した汗は嘘をつかない。」
その言葉を、私は長い間
「努力は必ず報われる」という意味だと思っていました。
けれど今は、少し違う解釈をしています。
努力の結果ではなく、
努力を続けたその時間そのものが、
いつか自分を支える――
そういう意味だったのかもしれません。
空手は技を磨く道であると同時に、
心を磨く道でもあります。
そして時には、「続けられなかった」という経験の中にも、
学びがあるのだと思います。
あの頃の汗も、痛みも、葛藤も、
すべてが今の自分をつくっている。
私は空手をやめました。
けれど、心の中では今も稽古を続けています。
日々の暮らしの中で、静かに息づく呼吸のように。
あきらめることと、やめることは違う。
あきらめない心があれば、
形を変えても“道”は続いていくのです。
結びの一言
過去の努力は消えない。
それは、これからの自分を照らす静かな灯りになる。
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